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Nathan Powell

本記事は、原著者の許諾のもとに翻訳・掲載しております。

新規SaaS事業における一番の課題はその成長です。お金を生み出す将来有望な仕組みを構築するというのは、それ自体、心を奪われる作業とも言えますが、その歩みは決して速いものではありません。何かしらの製品を立ち上げた人の誰しもが、 「他のサクセスストーリーと違うじゃないか」 というような、やり場のない気分になるのではないかと思います。

Nusii は成長しています。ただ、私の思いに反して、そのペースは遅々としたものです。では、これに対して何かできることはあるのでしょうか。

コンバージョンは良好

Michaelと私は定期的に数字を確認しますが、大体において、その結果にとても気分をよくしています。トライアルへのサインアップをする訪問者の割合は2.4%と、なかなかのものですし、トライアルから有料版に切り替える顧客は実に45%です。もちろん、私たちはSaaS分野では新参者なので、このデータはある程度範囲が限られたものではあるでしょう。それでも、大方のSaaS業者、特に自己資金による駆け出しのSaaS業者にとって、この数字は満足のいくものだと思います。ということはつまり、問題はここにはないということですよね(なお、サインアップにはクレジットカードの登録をお願いしています)。

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注釈:”王様はコンテンツだが、家事をこなすのは女王のマーケティングだ。”
Gary Vaynerchuk

SaaSの緩やかな死の斜面

The Long, Slow SaaS Ramp of Death(SaaSの長く緩やかな死の斜面) “というフレーズを言ったのはGail Goodmanですが、まったくもって彼女は正しいですね。 SaaS事業は前進している気がしないほど緩やかです 。手っ取り早く儲けたいなら銀行を襲った方がいいでしょう。サービス型ソフトウェアは、即金を得るための解決策にはなりません。実際のところ、数千ドル単位の収入を上げ得るような事業者は少数ですし、あのNathan Barryでさえ、彼の当初の目標であった MRR(月次発生収入)5000ドル に到達するまでに2年も掛かっているのです。

私にはこれについて事前に心得がありましたが、それでも長く辛い道のりに対する心の準備は完全にはできません。

作ったら、みんな集まるはず…それに気付いてもらいさえすれば。

月次成長率の話をする時、「 月次でコンスタントに20%成長していた 」という感じで、以前の数字をよく見せることはたやすいことです。しかし実のところ、ほとんどの人はちっぽけな数字に言及しているにすぎません。

例えば、少数の顧客のために新しいサービスを立ち上げたとします。初日に20人の顧客が喜んで登録をしました。彼らは、あなたの製品を気に入って使い続け、登録者数も月15%の割合で増え続けます。さて、レイバンの楽観的な色眼鏡でも掛けて見ると、この統計情報は素晴らしいものですよね。でも、12ヵ月後、顧客がどれくらいになったかというと107人でしかありません。統計的に見れば喜ぶことができますが、実際の数字は新しい家どころか、副業のコンサルティングを辞めてもいいというきっかけさえ与えてくれないのです。

では、例えば300人の顧客を得るまでに、何をすればいいと思いますか。どうやって生きていけばいいのでしょうか。私は 今でも たまにコンサルティングの仕事をしています。実は、今日も新しい案件を1件獲得しました。これもNusiiのおかげです(笑)。

いずれにせよ、全ての物事がうまく進むようになるまでは、別の収入源が必要になってきます。私について言えば、近日中に『 The Creative Professional’s Guide to Better Proposals 』という本を出版する予定なので、それを当てにできたらいいなと思っているところです。ここで言っておきたいのですが、収入を得るためにすることが何であれ、本題から目を離すことがないよう注意しましょう。経験上、新製品から1週間も目を離せば、トラフィックや登録数、コンバージョンに悪影響を及ぼすことがあります。

そんなわけで、SaaSが緩やかであり何とか食い次いでいかなければならないということは心得ていました。また、月次の成長率についても、それが最大の問題というわけでは(少なくとも直接的には)なさそうです。

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注釈:”計画Aが失敗したとしても、アルファベットの文字は他に25も残っているじゃないか。”
Chris Guillebeau

創業者泣かせのチャーン

創業者という立場からすると、同種のサービスを次々と乗り換える顧客、チャーンは悩みの種です。一人一人の顧客をつなぎとめておくことさえできれば、誰もが大金持ちになれます。しかし残念ながら、それは現実的には不可能です。

私たち を悩ますチャーンを生む要因はいくつかあります。

そもそもターゲットにしていた顧客ではない: Nusiiは創業当初から、私のような人をターゲットにしていました。結局のところ、私は自分のためにNusiiを作ったようなものです(私は自己中心的なタイプなんです)。しかしクリエイティブな仕事をしている人たちは、当然ながら1つの型にはまりません。それぞれニーズが異なり、ありがたいことに好みも千差万別です。独立したコンサルタントと、コンサルティング事務所や、海外展開している広告代理店とでは、一般的に要求が異なることは言うまでもないでしょう。私は、Nusiiはまだ最良の顧客を見つけていないと思っています。もちろん、その責任は私たちの側にありますが。

機能が足りない: 製品の位置付けがどうであれ、 新機能の要求は絶え間なく来るはずです。 ただ、あなたにその機能を作る気がない、もしくは単に時間がなくて対応できないことはあるでしょう。いずれにしても、 「もっとこんな機能があったらいいのに…」 という声を、毎日のように耳にはしているはずです。時には、そういった機能が原因で交渉が決裂し、顧客が去ってしまうこともあるかもしれません。もちろん逆のパターンもあるでしょう。結局のところ、顧客に自分が特別な存在だと感じてもらうためには、その顧客が望む機能を作るのが最良の道です。その機能が、製品の方向性と合致しているなら、やらない手はないでしょう。

いずれにしても、「もっとこんな機能があったらいいのに…」という声を、毎日のように耳にはしているはずです。

値段が高すぎる: 繰り返しますが、製品がどんな分野ものでも、常に誰かしらが高過ぎる、と言うものです。 でも、それは今に始まったことではありません。 気にする必要はないでしょう。サインアップをして試用版を使ってみたけれど、やっぱり高くて払えないと判断する人がいるのは仕方のないことです。そもそも彼らは、あなたの顧客ではなかったと思って諦めましょう。では、価格は最大の問題なのでしょうか?

それは違います。

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注釈:”重要なのは立派なブログを作ることではなく、読者にとって有益なブログを作ることだ。”
Brian Clark

そうなると、問題は決済エラー?

決済エラーがこれほど日常茶飯事だとは、誰も教えてくれませんでした。実際、支払いに失敗するカードは毎月あります。Stripe(オンライン決済サービスを提供する企業)から取得したカード情報が正確ではない場合もあるため、今や 顧客にクレジットカードの詳細情報を更新させること 自体が、SaaSの主要業務になっています。しかし、このような督促処理サービスを使っても、決済エラーのために毎月損失が出ていることに変わりはありません。ただ、何度も繰り返しますが、これもまた最大の問題ではないのです。

決済エラーがこれほど日常茶飯事だとは、誰も教えてくれませんでした。

たとえ問題が99件あっても、コンバージョンの件数が同じくらい多ければ、解約率や決済エラーの数は問題になりません。さて、それでは一体何が問題なのでしょう?

数が勝敗を決める

作ったら、みんな集まるはず…それに気付いてもらいさえすれば。

あなたの製品がどれほど優れていて使いやすいか、ということは問題にはなりません。コンバージョン率が高かろうが、解約率が低かろうが関係ありません。もちろん機能の多さも全く無関係です。

ただし十分なトラフィックを確保できていないと、あなた、というよりむしろ私自身がSaaSで高収益を上げることはできません。必要なのは、毎日欠かさずにあなたのサイトを見る人を集めることです。それ以外のことは後回しにしましょう。膨大なトラフィックを確保できなければ、SaaSという容赦ない日差しの下で、もがき続けることになります。

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注釈:”大きな目標に挑めば、全てが失敗に終わることはないはずだ。”
Tim Ferriss

結局、やり続けるしかない

先日、メンターの1人と話している時、彼から、最初の100人の顧客はどうやって獲得したのかと聞かれました。私は「 ブログ経由だよ。コンテンツマーケティングだね 」と答えました。

彼は言いました。「 すごいな、全身全霊つぎ込んだわけだ 」。

そのとおりです。そして今もそうしています。Nusiiは今もなお、自前の総力をかき集めて運営しているスタートアップです。Michaelと私は全てに関わっていますし、だからこそ素晴らしいユーザのサポートを獲得できているのです。 私たちは全力を尽くしています 。ちょっと別の話をしましょう。

私たちのブログは2013年の初めに始まりました。当時は、ブログどころではない時も何度かありました。しかし、私の手を止めたそのような特殊な事例は別として、私は定期的にコツコツとコンテンツのアップを続けてきました。その中にはとても良い投稿もありますし、 どんどんシェアされて大変な人気を集めた投稿 もあったのです(少なくとも私の目にはそう見えました)。

とは言っても…

私たちのトラフィック量では、コンサルティングの副業から足を洗うレベルには遠く及びません。いつか、実際の数字で私たちの状況をお見せすることになるのかもしれません。しかし正直なところ、最近の「 見せてくれたら、見せるよ 」という風潮はどうかと思います。 過去の投稿 を読んでいただければ、私がありのままを誠実に書いていることをお分かりいただけると思いますが、諸々の数字を表に出したいとは思いません。ワーキングクラスの出身ゆえでしょうか。

自力本願なSaaSの生きる道

では何かできることがあるでしょうか? 運命を受け入れる? とんでもない。

私たちは、完全にコンテンツマーケティングを止めることも視野に入れています。大変時間をとられますし、数字を見ればどこかを改良しなければならないのは明らかなのです。

誰かにコンテンツを引き継いでもらうのも一案ですが、膨大なコストが伴うのに変わりはありません。良いコンテンツを書くのにどれだけ苦労するか分かりますし、適切に続けるにはコストがかかります。

過去にはフリーランスライターと仕事をしたこともありますが、決して「これだ」と思えたことはありませんでした。少なくとも、 常に 満足はしていませんでした。包括的なコンテンツ戦略を意識したこともありません。それが見渡せるなら苦労しませんが。

そこでこれから数週間、事業の流れを上向かせるべく、 Audience Ops のBrian Caselと、密に議論を重ねます。かなりの期待をしていますし、どのように成果を出したか、後で必ずこの場で報告します。

その他にテストしているのは、サインアップ時にクレジットカード情報を要求するのを止めることで、うまくいけば現在 得られている トラフィックをより有効に活かせるはずです。サインアップ時にカード情報入力を強いるのはコンバージョン率を下げるのですが、カード情報要求がユーザをひるませるのは仕方のないことです。この仕様で随分苦情を受けてきましたが、こちらも理由があるのだということを分かっていただければと思います。その理由の数々については、この実験がうまくいったという確かなデータを準備できたらお話することにします。

では最大の問題とは?

トラフィックです。私たちも、あなたも、みんな、もっとトラフィックが必要なのです。順調だという噂のStripe利用者解析サービスBaremetrics以外は。

nathan powell signature

写真: Graph_Analytics_Line_Blue via photopin ( license )

Nathan Powell
クリエイター向け提案書作成ソフト Nusii の設立者。 The Designer’s Guide to FreelancingThe Creative Professional’s Guide to Better Proposals の著者であり、フリーのビジネス、デザインコンサルタントでもある。

監修者
監修者_古川陽介
古川陽介
株式会社リクルート プロダクト統括本部 プロダクト開発統括室 グループマネジャー 株式会社ニジボックス デベロップメント室 室長 Node.js 日本ユーザーグループ代表
複合機メーカー、ゲーム会社を経て、2016年に株式会社リクルートテクノロジーズ(現リクルート)入社。 現在はAPソリューショングループのマネジャーとしてアプリ基盤の改善や運用、各種開発支援ツールの開発、またテックリードとしてエンジニアチームの支援や育成までを担う。 2019年より株式会社ニジボックスを兼務し、室長としてエンジニア育成基盤の設計、技術指南も遂行。 Node.js 日本ユーザーグループの代表を務め、Node学園祭などを主宰。