2014年6月17日
画期的な起業プロセス
著者プロフィール非公開
本記事は、原著者の許諾のもとに翻訳・掲載しております。
2013年の初め、私は起業を決意しました。
それまでの4年間はいくつかプロダクトを開発し、大手クラシファイドサイト向けに運用していました。2008年に構築した画像ホスティングサイトは急速に成長し、ユニークビジター数が月200万になったこともあります。2011年には先ほどのクラシファイドサイト向けに検索や投稿ができるAndroidアプリを開発し、20万件以上インストールされました。現在は利用規約のためアプリの提供を終了しています。
この4年間、私はずっと1人で仕事をしていました。システム管理、データベース管理、PHP開発、Perl開発、Android開発、マーケティング、サポート、法務すべてです。手作業でヌード写真を削除し、Bindサーバのセットアップまで全部こなしていました。
対処すべき不具合も多く、1人でやっているときちんと対策する時間もほとんどありません。フリーのタフな開発者でも妥協ばかり続けているとモチベーションが下がってしまい、やたら非効率なのに小さなことに追われてしまうのです。かといって、あまり他社に依存すると開発者は食物連鎖の底辺になってしまう。だからこそ次はチームを作りたいと思ったのも当然でした。
ところがチームを作るにあたり、これまで以上に大きな難題にぶつかります。
最初は個人的なネットワークを洗い出すところから始めました。何年も1人で働いてきたことや内向的な性格が災いし、知り合いといえば数名の開発者がいる程度です。
そのうちチームに加えられそうなのは3人。コンピュータサイエンスを学んだ友人、物理を学んだ友人、そしてWebサイトを一度だけ作ったことのある友人の友人です。大学の卒業が近づいていたので、1人目の友人に起業を持ちかけました。彼は乗り気でしたが、修士課程への進学が決まっていたためリスクを冒すことはできません。2人目の友人も似たような状況で、3人目には声をかけませんでした。
知り合いが少ないのは自分のせいです。何をしてきたか聞かれてもつい説明を避けてきましたし、飲みすぎた夜でもなければAWSへの情熱を公言することもまずありませんでした。人と交流するのは苦手ですが、それでも落ち着ける場所から踏み出さねばならなかったのです。
そこで MeetUp.com に登録しました。Webテクノロジと起業に関するグループを探し、ミーティングの写真に圧倒されながらも、イベントへの参加を2件予約しました。
どちらの会場にも、熱い意気込みの人、人材を探している人、ピザを求めてウロウロしている人がいます。私は会場を歩き回っていくつかのグループに飛び入り参加したのですが、会話を聞いていてすぐに分かりました。ほとんどの参加者がプログラミング初心者か、一切経験がなかったのです。主催者を除くとプロのプログラマはごくわずかでした。それも、とうに野心を失った年上の人たちばかりです。
私にはかなり不利な点もありました。当時住んでいたのはテキサス州ダラス。テクノロジに強い人材が少なく、仲間にできそうな人を見つけて説得するだけで数カ月かかりそうでした。いっそのことサンフランシスコに引っ越してスタートアップに参加し、カンファレンスに出席してネットワーク作りをしてから自分のやりたいことをやろうかとも考えました。でも、そんなプロセスを踏むなんてバカげていますよね。
たった一言のツイートで革命を起こせる時代に、起業プロセスを最初から最後までやろうとしていたのです。
でもWebなら人材を配分できる最高のシステムを作れます。安く速く構築できて、誰でも加われる。このようなネットワークを持っている企業はすでにありますが、閉鎖的で非効率です。ネットワーク外でなら誰もが参加できますが、それだと多くのベンチャーは投資家を説得できないでしょう。ネットワーク内の人材でさえ、大きなリスクを吸収できるかはベンチャーキャピタルの意向に左右されます。
この問題が現実となりました。そこで私は真っ向から取り組み、解決策を探り始めたのです。ベンチャーキャピタル抜きでも人が自由に集まり、アイデアを形にできる場所を作れないだろうか? 誰でも空き時間に参加して仲間を募れるような場所、ダイナミックな労働力が集まる場所です。
このアイデアを具体化するため、1人で6カ月以上かけてアルファ版を作りました。この時点でパートナー探しは中止しています。
私はPythonにもDjangoにも詳しくなかったので、Stack Overflowのスレッドに何度も助けられました。役に立つ回答をもらえたら、回答者のプロフィールをブックマークしておき、今度はインターネットの力に期待して1人ずつコンタクトを取りました。連絡先を公開している人に、「面白いプロジェクトがあるけど、もし興味があればSkypeで話さないか?」とメールを送ったのです。
およそ100人のうち15人から返事がきて、その中の10人とSkypeで話しました。私のアイデアをすぐに理解してくれた人もいましたし、山ほど質問をして納得してくれる人もいました。やり取りしながら彼らの表情を読み解くのは刺激的です。アイデアに潜む問題点も、話を理解してくれたことも感じ取れるからです。解決策を提示し、間違っているかもしれないので一緒に問題を片づけていこうと誘いました。
これには朝から晩までやって1カ月半ほどかかりました。ほとんどの人は最初のメールに返事もくれませんでしたし、私の話に納得して協力したいと言っていた人たちですら実際には動いてくれませんでした。しかも仲間を探し回っていた間は、忙しくてコーディングも進んでいなかったのです。プロジェクトは遅々として進まず、このままでは立ち行かないと思うこともありました。多くの時間を費やしたのに、アイデアを伝えられたのはわずか10人。仲間を1人見つけるには、1,000人に声をかけないといけないのでしょうか。どうやら私も、陥りがちなワナにはまっていたようです。アイデアを大切に守るあまり、その価値を高めないまま潰しかけていました。
残された道はただ1つ、アイデアをオープンにするしかありません。つまり世界にドアを開いて自分のアイデアや不完全なコードをさらけ出し、意見や協力を広く募るのです。
こうして Joltem.com は誕生しました。「joltem」は「jolt them(彼らを驚かせろ)」の略で、私たちは「オープンインキュベータ」と呼んでいます。少なくとも起業から初期の段階をオープンにすることで、多くの企業は利益を得られるとの考えに基づいています。オープンでダイナミックな労働力を組織し、人材を補うために作りました。
Joltemはコントリビュータ全員が1つのリポジトリで作業できるよう、GitHubで普及した従来型の pull&fork モデルは採用しないことにしました。1つのリポジトリで作業できれば大規模なコラボレーションにもすぐに対応できます。シンプルなgit fetchコマンドを実行するだけで、コントリビュータ全員からすべてのコードを集められます。また、コントリビュータごとにリモートリポジトリを追加する必要がなく、常に1つのdevelopブランチもしくはmasterブランチに集中できるのです。
これを実現するために タスクとソリューション に基づくタスク管理モデルを開発し、ブランチレベルのパーミッションを設定できるカスタムのgitサーバと関連づけました。権限のあるユーザーはすべてのブランチにプッシュでき、他のコントリビュータは自分に割り当てられたソリューションブランチにだけプッシュできます。
報酬については、従来のストックオプションプールを少し変えています。一般企業だと資金調達ラウンドごとに一定数の株式が新入社員に割り当てられます。社員には一定数の株式が約束され、べスティングプランの対象になります。もしその企業で働き続ければ約束された株式の一部を受け取れます。Joltemでは会社が設立されるとその株式の一部がコントリビュータに割り当てられます。Joltemプロジェクトの場合は株式の85%で、従来のストックオプションに相当します。唯一私たちが変更したのは、プールの配分だけでした。
各コントリビュータがどれだけプロジェクトに貢献したかは インパクト と呼ぶ指標で測ります。コントリビュータがプロジェクトに何か提供するたびに、本人の判断でインパクトを自己申告します。他のコントリビュータはその人が満足のいく仕事をしたか、適切な自己評価だったかどうかを判定します。意見の食い違う場合は 交渉プロセス で妥当な値を決めることになります。Joltemプロジェクトでの経験から言うと、意見の食い違いはめったに起きません。コントリビュータは自分の仕事にどの程度の価値があるか、感覚をつかんでいくからです。べスティングプランの場合と同じように、獲得したインパクトは一定期間を置いて、設立された企業の株式と交換できます。
さあ、Joltemなら誰でも参加できます。
ぜひ プロジェクトを投稿してくだい 。メンバーに声をかけて個人的にコラボレーションすることも、完全なオープンプロジェクトにすることも可能です。 Joltemプロジェクト にだって参加できますよ。
Joltemの Twitter 、 Google+ 、 Facebook もあります。私たちのreddit r/joltem から、新プロジェクトをチェックしてみてください。
質問やご意見は emil@joltem.com へどうぞ。
株式会社リクルート プロダクト統括本部 プロダクト開発統括室 グループマネジャー 株式会社ニジボックス デベロップメント室 室長 Node.js 日本ユーザーグループ代表
- Twitter: @yosuke_furukawa
- Github: yosuke-furukawa