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Nis Frome
Forketing

(2013-09-17)by Nis Frome

本記事は、原著者の許諾のもとに翻訳・掲載しております。

新しいカタチのソーシャル・キャピタル

半年ほど前、私はニューヨーク市で開催されたハッカソンに参加しました。ハッカソンに参加したことのある方なら、それがどんなものかをご存知でしょう。しかし、週末を家族や友人と過ごす健全な皆様にはなじみがないと思いますので、ハッカソンの概要をご紹介します。

ハッカソンは、1週間ほどかけて、プログラマが条件に合ったプロジェクトを一から作るコンテストです。つまり、ハックとマラソンを合わせた造語です。本当のマラソンと同じように、休息時間が少ないほど、勝利に近付いていきます。恐らく、ハッカソンにおいても、一番欠かせないのが(栄養ドリンクの)レッドブルでしょう。

ハッカソンの多くは企業からの資金援助で成り立っています。その見返りとして、企業は優秀な人材の履歴書を手に入れたり、イベントの冒頭に新技術のデモを行ったりしています。デモで紹介された API を最もうまく活用したチームには賞品が与えられることもあります。

ハッカソンの基本的な目的は、企業が優れた才能に目を付けたり、斬新なアイデアをクラウドソーシングしたりできるようにすることでしょう。しかし、組織によっては、それ以上の意味があります。

このハッカソンで、私たちのチームは意気揚々とプロジェクトを進めようとしました。しかし、この時に使ったスポンサーの技術について、私たちは全くの未経験でした。そして東海岸の人々が深い眠りにつく頃、私たちは失敗をしていたことに気づいたのです。NoSQLデータベースをあれこれいじくりまわした約半日が無駄になり、そこからは社会科学を専攻しなかったことを悔やみながら、ひたすら難問に頭を悩ませていました。


2013年春のhackNYのチーム

しかしその時、まさしく文字通りに扉が開いたのです。

午前3時頃、メール配信サービスSendGridのディベロッパが2人、部屋にやってきて、各テーブルを回り始めました。しかし、SendGridのAPIを使っていなかった私たちは、最初彼らのことを無視していました。

彼らがテーブルにやってきた時、ディベロッパエバンジェリストのMike Swift氏が何か困ったことはないかと尋ねました。

私たちは特にないと答えました。自分たちのプロジェクトにメールサービスは使っていなかったのです。

しかし、Swift氏はテーブルを離れず、さらに質問を投げかけてきました。私たちが何に取り組んでいるのか、どんな技術スタックを使っているのか、どんな支援が必要なのかと。

彼は問題を一通り確認し、順を追ってマイナーなオンラインツール、リソース、ベストプラクティスを紹介してくれました。その多くは彼自身が関わっていたり、独自に作成したりしたものでした。

1時間ほど経つと問題点が一気に解決し、なんとかプロジェクトを進めることができました。まだ朝日が顔を出す一歩手前。私たちの体力も残っていました。

Swift氏の話に興味が湧いてきたのは、それから数日後のことです。仮眠を取りながら、レッドブルを飲んでから48時間も経っていました。

なぜSendGridのディベロッパたちは何の関係もないプロジェクトに取り組んでいる私たちのため、真夜中に時間を割いてくれたのでしょうか。私たちが使っていた技術について幅広い知識を提供したところで、彼らには何の得もありません。また、自社のディベロッパが長い時間と労力を費やしてGitHubのプロジェクトをフォークして、関係のないオープンソースのプロジェクトを公開することを、SendGridが何とも思わないのはなぜでしょうか。

特に不思議なのが、SendGridが並み居る企業の中でも、飛び抜けてハッカソンの参加者に熱心に関与していることです。

Stack Overflowは最近Company Pagesという新しい機能をリリースしました。この機能により、企業と2,000万人以上のディベロッパがStack OverflowのQ&Aサイトで意見を交換することができます。しかし、このページはそれ以上に、より大きな時代の流れに対応しているように思います。

「私たちはこれまで、多くのディベロッパがGitHubでオープンソースのプロジェクトをフォークし、貢献するのを見てきた。そこでの活動は、ある意味履歴書代わりになっていたんだ」とStack OverflowのプロダクトマネージャであるWill Cole氏は言います。

彼のチームはCompany Pagesの設計と実装で重要な役割を果たしました。

Cole氏はさらに、「私たちは今、新たなトレンドに気づいている。仕事を探している優秀なディベロッパは、他の優れたディベロッパと仕事をする機会を求めているんだ」と付け加えました。

Stack OverflowがCompany Pagesを作成したのはそのためでした。ここでは組織が自社の優れた人材を紹介できるのです。「Who you’ll work with?(あなたの将来の仕事仲間は誰?)」というセクションでは、外部の人間でも特定の組織からStack Overflowにいるディベロッパを探すことができます。仕事を探す人は将来の仕事仲間のプロジェクトや回答を評価できます。


Stack Overflowの新しいCompany Pages機能

Cole氏は「特に面白いのが、そのような観点でディベロッパにアプローチする会社がほとんどないこと」だと言います。「多くの会社の人事担当は、いまだに雇用機会を元に人材を探す方法にこだわっている。会社は給料や福利厚生の内容を売りにはしても、優れた人材が揃っていることは言わないんだ。でも、「うちにはこんな優れた人材が揃っていますよ」とアピールする会社があってもいいと思わないか?」

Cole氏の考えには賛成です。私は東海岸で最大級のモバイルアプリに関するミートアップ、 Rutgers Mobile App Development meetup に共同オーガナイザーとして関わっています。そのため、いろいろな企業から、人事担当者を送って採用情報を紹介したいという問い合わせを受けるのですが、仮に来てもらったとしても、その人事担当者が話し始めた途端、みんなが眠りに落ちてしまうこともよくありますからね。

ところで、Stack Overflowに新機能が追加されたことがきっかけで、私は今年初めのハッカソンで力になってくれたSendGridのディベロッパ(その後、SendGridを離職)、Mike Swift氏とコンタクトを取るようになりました。

彼は「私たちは自社のブランド力を強化するために、参加者を支援して回る。私が何かの役に立てば、それがそのままSendGridの評判に直結するんだ」と言い、「そうやってソーシャル・キャピタルを構築する」と続けました。

これには感心しました。

ハッカソンにおけるSendGridの熱心でユニークな関与は、徹頭徹尾、企業ブランド力を構築するためだったというわけです。単に履歴書を回収して主体性のない人事担当者に横流しする代わりに(ほとんどのスポンサーはそうしていますが)、SendGridは自社の生産チームを送り込み、参加しているディベロッパたちと密に交流する戦略を採っていたのです。

「私たちの仕事は友人になること。その投資が巡り巡っていつの日かペイオフされることに賭けているんだ」とSwift氏は言います。

つまり、それがあの時だったのですね。専門知識を持つ人材を構成して活用するというこの動きは、潜在的な従業員に対して好感度を上げるための策略だったのでしょう。

お見事ですね。

ある午後、アジャイルのスプリント計画会議で、プロジェクトマネージャが電子メールの配信サービスについての議題を上げ、お薦めのサービスはあるかとチームに聞いてきました。

それを受けて、私はほとんど無意識的に「SendGrid」の名を挙げていました。

「何だって?」

「SendGridです」

「今までに使ったことは?」

「ありません」

「じゃあ、どういう理由で推薦するのか説明してくれ」

「そこのディベロッパに会ったことがあります。彼らが取り組んでいるプロジェクトもいくつか見る機会があったのですが、とても才能あふれる人たちです。彼らの製品が悪いなんてことは想像できません」

「なるほど。じゃあ試してみよう」

私たちのチームはすぐにSendGridを気に入りました(ちなみに、現在は競合他社の製品を使っていますが、その理由はプロモーションで安くなっていたためで、つまり私たちはケチ…ではなくて「効率的」なんです)。

すでにお気づきの方もいるかもしれませんが、このことから以下の3つのことを更に考えることができると思います。

実際に、私が製造のメカニズム(この場合はディベロッパ)を知っており、その上で製品が信頼に足ると想像できたとして、使ったこともない製品を推薦するなんてことはあり得るのでしょうか? このようなことは、現実世界においては、1回限りの偶発的な出来事なのでしょうか? それともそんなことはないのでしょうか? そして、もしそんなことではないならば、このことは、私たちが正しいと信じている企業イメージの普及活動に対して何を意味するでしょうか?


お気に入り

これまでは、あるチームが製品の製造を担当し、それとは完全に別のチームが出来上がった製品のマーケティングを行っていました。そして多くの場合、この2つのチームは、直接的な相互作用を持つことはありません。それどころか製造チームに至っては、実際に製品を使う人たち(顧客など)からも、一定の距離を置いていることがほとんどです。


こちらもお気に入り

もし、腕利きのマーケティング担当者に宣伝を任せて、LinkedIn上で無差別にメールを送ったりデータシートなどを配布したりする代わりに、技術担当者がStack Overflowで開発者の疑問に答えたり、GitHubでプロジェクトのフォークをしたりして、企業の認知度を高めていけばどうなるでしょうか?

「企業が、雇用のマーケティング戦略の一部として自社の技術チームを活用することになれば、最終的にはそれがその企業の製品の、利用者に対するマーケティング戦略へとつながっていくはず」とCole氏は説明します。「それが次のステップさ」

私たちが今話しているのは、このことについてです。だからと言って、私はクレイジーなわけじゃありませんよ。まあ、少なくともこのことについてはね。

Swift氏が口を開きます。「直接的であれ間接的であれ、こうしたオープンソースライブラリやプロジェクトを持っていることで、SendGridに何らかの見返りがある事に気づいたんだ。でも、ディベロッパによるストリート・クレディビリティ(流行を先導することができるというイメージ)の確立というのは、氷山の一角でしかないと思う」

ディベロッパが推進して企業イメージを向上させる、何とも高貴なコンセプトではないですか! それについて、私たちがすべきことは何でしょうか?

「こうした取り組みを定量化する方法を見つけ出し、事業に対する重要度を測ることが重要だね」とSwift氏は警告します。「ディベロッパエバンジェリストたちが作るコンテンツは、ディベロッパたちが仮にいなくなっても残り続ける物だから、これらの指標化に取り組んで記録することが大切だと思う」

ちょうど私がこの考えを実践しようとする中、私たちのフロントエンド・ディベロッパが、自社サイトにアップロードされるユーザ画像をクライアント側で編集できるという新しい機能の追加に取り組み始めました。彼は、このタスクの土台となるオープンソースライブラリを見つけたと言って喜んでいます。もちろん作業においては問題や制限もありましたが、彼は既にそのほとんどを解決しており、現在は機能を拡張しているところです。

私は「GitHubでフォークするのを忘れないように」と彼に言いました。

彼は振り返り、その理由を尋ねます。

私はそれほど感傷的でないため、かしこまった場というのは得意ではありません。必要になった時に情報を参照できるようなソースも知りませんし、適切な言い方をひねり出すようなやり方も分かりません。そんなわけで、いつの日かそれが日常に浸透するまで、私はこう言うようにしています。

「効果的なフォーケティング(フォーク+マーケティング)だからさ」

監修者
監修者_古川陽介
古川陽介
株式会社リクルート プロダクト統括本部 プロダクト開発統括室 グループマネジャー 株式会社ニジボックス デベロップメント室 室長 Node.js 日本ユーザーグループ代表
複合機メーカー、ゲーム会社を経て、2016年に株式会社リクルートテクノロジーズ(現リクルート)入社。 現在はAPソリューショングループのマネジャーとしてアプリ基盤の改善や運用、各種開発支援ツールの開発、またテックリードとしてエンジニアチームの支援や育成までを担う。 2019年より株式会社ニジボックスを兼務し、室長としてエンジニア育成基盤の設計、技術指南も遂行。 Node.js 日本ユーザーグループの代表を務め、Node学園祭などを主宰。