POSTD PRODUCED BY NIJIBOX

POSTD PRODUCED BY NIJIBOX

ニジボックスが運営する
エンジニアに向けた
キュレーションメディア

POSTD PRODUCED BY NIJIBOX

POSTD PRODUCED BY NIJIBOX

ニジボックスが運営する
エンジニアに向けた
キュレーションメディア

FeedlyRSSTwitterFacebook
Filip Paldia & Jamie Clarke

本記事は、原著者の許諾のもとに翻訳・掲載しております。

クイックサマリー:AIはタイポグラフィに大変革をもたらしつつあります。それは、デザイナーにとってチャンスをもたらすと同時に、課題も突きつけています。品質に影響はあるのでしょうか。また、デザインの役割や活字の使用は今後どう変わっていくのでしょうか。この未知の領域を進みながら、私たちはグーテンベルクによる印刷機の発明以来の重要な岐路に立っていることに気づかされます。近い将来、テキストとの関わり方やビジュアルコミュニケーションは大きく変わるでしょう。


時は2028年、あなたは今よりもはるかにグレードアップしたワークステーションの前に座り、壁に映し出された画面を見つめています。「ねえ、AI」とあなたは語りかけます。「このページの見出しなんだけど、いくつか字体の選択肢を…」あなたが話し終わる前に、「タイプマスター3000」の愛称で呼ばれるAIアシスタントが熱心に口を挟みます。「大胆かつ奇抜なデザインがいいですか?それとも、洗練された雰囲気の中に遊び心も感じさせるセリフにしますか?」

あなたはあきれた顔でこう言います。「選択肢を10個出してちょうだい。今回は遊びの要素は抜きで。」

AIが見栄えのいいフォントや統一感のある質の高いデザインを生み出せなかった時代は終わりました。ライセンスの問題も過去の話です。2028年のAIは、独創的なフォントファミリーを複数の言語で提示できるようになっています。グリフ(訳注:一般的には「字体」などの意)も一つひとつ完璧な仕上がりです。しかし、完璧とは言え、癖がないわけではありません。

拡大プレビュー

タイプマスター3000が瞬時に生成したフォントのサンプルを見てみると、「Sandy Serif」や「Desert Island Display」といった具合に、どのデザインにもどこか海辺のバカンスを思わせるような雰囲気があります。

あなたはため息をつきます。「ビーチ感は抑えて、もっとビジネスライクにしてくれる?」

「了解です」とタイプマスター3000は言います。「ビジネスモードに戻ります!」

気に入ったフォントが見つかったのでタップすると、あなたが作成したデザインに即座に反映されます。バランスや位置関係も調整されて、まるで初めからそこにあるべきであったかのような自然な仕上がりです。

タイポグラフィにおけるテクノロジーの進化

では、現在に視点を戻しましょう。最新のソフトウェアを駆使しても、プロフェッショナルな書体を新たに生み出す作業は時間がかかり、細心の注意が求められます。木活字に始まり、金属、フィルム、デジタルへと進化を遂げてきた活字産業は、歴史を通して常にテクノロジー革新の最前線を走ってきました。

新たなテクノロジーが生まれる度に、活字の生産方法は大きく変わり、活字の作成と使用の両方でデザイナーの活躍の機会が広がってきました。他の業界と同様に、我々もAIという山を麓から見上げ、この先待ち受ける険しい変化の道のりに身構えています。

人工知能が活字デザインに及ぼす中期的影響に関する予想は、主には大抵次の2つのシナリオに集約されます。

  1. コラボレーションツールとしてのAI(副操縦士としてのAI)
    このシナリオでは、AIは活字のデザインプロセスを支援し、太字やイタリック体の書体の作成など、時間のかかる作業を行います。活字デザイナーは反復作業の負担から解放されるため、ワークフローを合理化し、より多くの時間をクリエイティブな作業にあてることができます。
  2. 完全AI生成フォント(オートパイロットとしてのAI)
    タイプマスター3000のシナリオで見たように、このシナリオでは、AIは独自にフォントを作成します。その結果、愛好家がプロンプトを使用して作成した無料の書体が大量に生まれるでしょう。最初は、プロのデザインと比べて新規性や一貫性、クラフトマンシップに欠ける可能性があり、市場はより信頼できる、専門家によって生成されたAIフォントに傾くでしょう。

しかし、やがて素人が作成した「海辺のバカンスにぴったりなフォントを作って」といった簡単なプロンプトでも、人の手による成果物に匹敵するものをAIが生成できるようになるでしょう。そのため、長期的にはオートパイロットフォントが優勢になってくると思われます。活字ユーザーにとっては、いずれにしても使えるフォントの選択肢が増えるため、どちらのシナリオでも喜ばしいでしょう。しかし、このような変化は活字業界を大混乱に陥れるものになります。

グーテンベルク規模の大変革

しかし、AIの山の頂はまだこのシナリオのはるか先です。混乱は伴うものの、これは活字産業が将来大きな革新を遂げるために必要で、重要な変化なのです。道のりは険しいかもしれませんが、AIは画期的なフォントを生成するだけでなく、テキストによるコミュニケーションに根本的な革命を起こし、動的でインタラクティブなタイポグラフィの新時代への道を開くでしょう。

過去にもテクノロジー革新はありましたが、タイポグラフィそのものは600年前に発明されて以来大きく変わっておらず、テキストをより広く普及させるために写字生の創造性が大いに犠牲になってきました。次の進化では、コンテキストによって変わる動的な書体が登場するでしょう。それにより、特定のコンテキストやユーザーの要望に応じてテキストをカスタマイズし、より細かいニュアンスを正確に伝えることが可能になります。

このようなタイポグラフィの革命は、世界の文明に大きな恩恵をもたらすと考えられ、我々の最終目的であるべきです。

AI革命における最新の進歩

AI画像生成は、特にディープラーニングの領域において急速な進歩を遂げています。ピクセルベースの画像を中心に、素晴らしい成果物を生み出しています。これらの画像は、ニューラルネットワークを駆使し、デジタルのモザイク画を作成するように個々のピクセルを操作して生成されます。一方で、フォントの作成に不可欠なベクターグラフィックスは進化のペースが緩慢で、2023年に発表された論文の数もわずかです。

ベジェ曲線によって定義されるベクターグラフィックスは、そのアルゴリズムの特性により、ニューラルエンコーディングの面でより複雑な課題を突きつけています。しかし、この分野に言語モデルの手法を応用する動きが広がっており、より高度な応用が期待できそうです。

とりわけ目覚ましい進展がみられるのが、AIが学習することである画像のスタイルを別の画像に適用するスタイル転換の研究です。これは、円形書体とモダンなサンセリフ体を融合し、巻きひげや、ストロークのコントラストをあしらったHelveticaを作るようなものです。

フォントスタイル変換 拡大プレビュー

AIが少数の文字からフォントのスタイルを学習し、それを当てはめることで完全なフォントを生成するフューショットフォント生成タスクと呼ばれる手法でも、大きな進展がみられています。

フューショットフォント生成 拡大プレビュー

このアプローチは、特に多言語フォントや、巨大な文字セットを持つ日本語や中国語のフォントをデザインする上で、商業面でもクリエイティブ面でも大きな可能性を秘めています。

ベクターグラフィックスやタイポグラフィの生成におけるAIの可能性はまだ初期段階にあるものの、現在の動向は有望な未来を示すものであり、複雑性の問題は徐々に克服されていき、デザイナーに新たな道を開くでしょう。

未来を導く:AIタイポグラフィにおけるデザイナーの重要な役割

こうした流れや、高らかにうたわれているAIの可能性を受けて、クリエイティブ領域のプロフェッショナルは当然のことながらその短期的影響について検討しています。AIを活用する愛好家が増えるにつれ、タイポグラフィを含む専門テクノロジーが軽視されるようになるのではないかと、デザイナーは懸念を募らせています。

クリエイターとしての本来の姿とプロフェッショナルとしての立場を守るため、デザイナーがAIツールの発展に影響を及ぼし、高いデザイン基準を主張することは、我々の業界の未来を良い方向に導く上で極めて重要です。

(訳注:原文同様 XへのPOSTリンクとなっています)

グーテンベルクの印刷機も、当初は懸念や論争を引き起こしたものの、史上最も革命的な発明の一つになりました。AIも同様の可能性を秘めていますが、それがどのような道筋をたどのるかは我々のアプローチにかかっています。

デザイナーのジレンマ:品質を保ちつつAIを受け入れる

人工知能を利用して創造性を高め、効率化を図るのか、それとも素人主導の自動化がプロの仕事の質の低下を招くリスクを黙って見過ごすのか、我々は選択を迫られています。受け身の姿勢で傍観者になるのではなく、AIの発展が品質主導の結果につながり、これらのツールがデザイナーとしての我々の力を弱めるのではなく、強化するよう積極的に関わる必要があります。

デザイナーは、アイデアを構築する方法について造詣が深いため、AIツールをより効果的に使いこなせると言われています。しかし、こうした新しいツールを受け入れることは、ガードを緩め、他者が基準を設定するのを認めることとは違います。そうではなく、我々はAIをインスピレーションやイノベーションへの踏み台として利用すべきです。

例えば、現在のAI生成画像は分かりにくいテキストプロンプトと大量のデータセットの組み合わせにより、予期しない結果を生み出すことが少なくありません。しかし、インスピレーションを得て、新しいアイデアを生み出すきっかけとして有効なツールです。

AIタイポグラフィにおいて立場を守る

タイポグラフィにおいて、デザイナーは書体を選ぶ際により慎重になる必要があります。独創的で創意に富んだアマチュアフォントが市場に大量に出回り、それらの品質について掘り下げた評価が必要になる可能性があります。デザイナーは、文字セット、スペーシング、デザイン全体をより注意深く確認しなくてはいけません。

書体を巧みに使うことは、仕事を際立たせるだけでなく、業界のトレンドや基準に影響し、活字デザイナーのインスピレーションや指針になるという意味でも、これまで以上に重要です。

活字デザインにおいてAIに適応する

AIツールの発展と方向性は、テクノロジーに巨額の投資を行っている大企業の手にのみ委ねる必要はありません。タイプファウンドリー各社が協力し、互いのリソースを出し合って共通のAIソフトウェアモデルを構築できれば有効な手立てになるでしょう。こうした協力的アプローチにより、AI主導のイノベーションを利用できるだけでなく、独自のデザインを無断使用から守ることもできます。

また、大規模なAIモデルより小規模なものの方がパフォーマンス面で優れている場合があることを示す研究結果もあります。つまり、独立系のファウンドリーが独自のニーズに合わせた小規模なカスタムAIツールを開発することも可能ということです。

デザイナーが未来を形作る:静的なタイポグラフィからAI主導のイノベーションへ

品質がまちまちのアマチュアフォントが大量に出回るのは懸念材料ですが、AIはプロによる書体の品質と新規性も大幅に改善するでしょう。活字デザイナーは開発者と協力し、活字の次なる進化をリードしていく存在です。

私たちが見慣れたタイポグラフィはひどく静的で、コンテンツやコンテキスト、読み手の反応に応じて動的に調整することができません。現時点では、フォントスタイルを変えたり、絵文字を取り入れたりするくらいしか選択肢がありません。

(訳注:原文同様 XへのPOSTリンクとなっています)

過去に活躍した写字生は、強調や装飾を施したテキストを作成するテクノロジーにたけており、情報の伝達をより豊かなものにしていました。ヨハネス・グーテンベルクが印刷機を発明した際、彼の目的は写字生の芸術性を超えることではなく、知識と情報を一般大衆に届けることでした。その点について言えば、グーテンベルクは成功しました。しかし、活字はその後創造的進化を遂げたものの、テキストを視覚的により豊かにし、微妙なニュアンスを表現する写字生の能力は失われました。

活字の発明によって失われた表現の豊かさや柔軟性を示す挿絵入り原稿。ウィーン、1430〜1435年頃。画像出典:Wikipedia拡大プレビュー

タイポグラフィの運命

タイポグラフィの次なる革命は、テキスト表現の流動性、適応性、双方向性の時代を開くものであるべきでしょう。活字はもっとカスタムレタリングのように振る舞うべきです。この変化は読者体験を大幅に向上させ、文字によるコミュニケーションをより汎用的かつ正確にし、以下を含むさまざまな要素への対応を可能にします。

  • コンテンツに応じたテキストの調整
    本のクライマックスに合わせてスタイルやリズムを変えたり、元気が出る詩を読む際に文字をおどけた調子で浮かび上がらせたりといった、表示されたコンテンツに応じたテキストの変化。
  • 環境への適応
    照明や、読者の目とテキストの距離などに応じたテキストの変化。
  • 感情の表現
    色の変化やかすかなアニメーションなど、テキストの感情的なトーンに応じて変化する要素を取り入れた、表現豊かなコミュニケーション。
  • ユーザーインタラクション
    生体センサーを通じて検知するユーザーの読むスピードや目の動き、感情的な反応に応じたテキストの変化。
  • デバイスとプラットフォームの応答性
    CSSを使ってあらかじめ設定する必要もなく、画面のサイズ、解像度、向きなどの要素を考慮し、テキストを適応させることで実現する最適な可読性。
  • アクセシビリティの強化
    幼い読者や、失語症や視覚障害のある読者に合わせて文字の大きさやコントラストを動的に調整するテキスト。
  • 言語と文化への適応
    タイポグラフィのデザイン意図を維持し、文化的なニュアンスに敏感に適応しつつ、言語間やスクリプト間でスムーズに移行できる活字。

最後に:デザインの未来を受け入れる

我々は、タイポグラフィの大変革の入り口に立っています。他の業界と同様に、活字業界もこの先大きな変化が待ち受けています。タイプマスター3000のような未来のシナリオは、業界にとってその道のりがいかに混乱に満ちたものかを示しています。しかし、静的な活字の限界を押し広げ、我々の創造力を高め、異文化コミュニケーションの向上を促すためにも、この道は進む価値のあるものです。

変化は近づいており、我々デザイナーにとっては変化を受け入れるだけでは不十分です。専門知識、嗜好、判断力を頼りに、積極的に変化のかじ取りをしなくてはいけません。業界一丸となってタイポグラフィへのAIの導入を導き、単なる自動化にとどまらないようにすることが重要です。AIの導入は、タイポグラフィを高めるものであるべきです。目指す先には、フォントの静的な実用性を超越した、動的かつ正確で、コンテキストに応じて変化するタイポグラフィがあります。

各自が創造性や知見を持ち寄り、ともにAIを導くことで、自らの創造性を高められるだけでなく、デザインの水準を引き上げ、文明全体をより豊かにすることができるはずです。

関連リンク

監修者
監修者_古川陽介
古川陽介
株式会社リクルート プロダクト統括本部 プロダクト開発統括室 グループマネジャー 株式会社ニジボックス デベロップメント室 室長 Node.js 日本ユーザーグループ代表
複合機メーカー、ゲーム会社を経て、2016年に株式会社リクルートテクノロジーズ(現リクルート)入社。 現在はAPソリューショングループのマネジャーとしてアプリ基盤の改善や運用、各種開発支援ツールの開発、またテックリードとしてエンジニアチームの支援や育成までを担う。 2019年より株式会社ニジボックスを兼務し、室長としてエンジニア育成基盤の設計、技術指南も遂行。 Node.js 日本ユーザーグループの代表を務め、Node学園祭などを主宰。