ジョエル・スポルスキによる『Trello, Inc.について』

もしもし。聞こえてますか?

今となってはこの“ブログ”なるものを運営する方法を、自分が覚えているのかさえ自信がありません。最後に投稿してから1年も経つんですから。僕はブログから引退したんですよ。覚えてます?

ちょっと変な話を聞いてください。僕がブログを投稿するためには、リモートデスクトップ接続を経由して、サーバラックに収納されている骨董品級のWindows 7マシンにつなぐしかないんです。このマシン上では異様にごちゃごちゃした古いバージョンのCityDeskが稼働しています。僕が何とかハックした揚げ句、このマシン上でしか動かなくなってしまったものです。お恥ずかしい限りです。

ところでTrelloについての楽しい話もご紹介しましょう。もう皆さんもきっとご存じの通り、TrelloはFog Creekで開発した、すごいビジュアルプロジェクト管理システムです。

解説しましょう。言い伝えによれば、はるか昔2011年の早い時期のことでした。Fog Creekでは新しい製品のアイデアを出すため、ささやかな取り組みを始めました。まず8人の開発者を連れてきて、彼らを4つのチームに編成しました。2人で1チームです。数カ月かけて、製品のアイデアのプロトタイプかMVPを製作することにしたのです。そうすれば世間の人が欲しいと思うような製品が1つくらいは出来るかもと思ったのです。

このうち1つのチームが、Trelloの基になるコンセプトに着手しました。とてもいいアイデアに思えたのでチームを2倍に増員し、開発者は4人になりました。いじってみればみるほど、これが気に入りました。9カ月経つと、公開できるくらいいい感じになってきたので、TechCrunchのカンファレンスでTrelloを発表してみました。するとこれが大絶賛を受け、すぐさま最初のユーザたちを獲得したのです。

あれから3年、Trelloは快進撃を続けてきました。チームは18人ほどに増え、そのほとんど全員がエンジニアです。iPhoneとiPad版Android版とWeb版をリリースしました。Kindle版もです。おっと、Android Wearもでした。ユーザ基盤は着実に増え、今では460万人に達しました。

うわー。

僕が驚いたことを下に書いてみますね。

  • 僕たちが開発者向けではない製品を作るのに成功し、それが実際に一般ユーザに気に入られたこと。今回はソフトウエア開発者に向けたニッチな製品は避けようと努力して、それがうまくいきました。これはTrelloが視覚的だからだと思います。ボードやカードに例えたプロジェクト管理が分かりやすく、どのボードを見ても瞬時に理解できるのです。今まで、オンラインのプロジェクト管理ツールなんて不便で価値がないと思っていた人々さえ魅了したようです。
  • すごいスピードで広がっています。まるでガスがあっという間に広がって空間を埋め尽くすかのようです。例えば誰かが読書会でTrelloのことを聞いて、仕事で使ってみます。すると、すぐに会社全体が何百ものTrelloボードを使い出し、ハイレベルなロードマップから休憩室に常備するスナック菓子のリストにいたるまで管理し始めるのです。
  • 人々に愛されています。Trelloのメンションを見ようと定期的にTwitterをチェックしているのですが、そこでツイートされるポジティブな感情を見ていると畏怖の念を感じるほどです。

僕たちはTrelloビジネス講座というものを立ち上げました。企業がTrelloをよりよく使いこなせるよう、あらゆる種類の上級管理機能を安い受講料で教えています。あら不思議、Trelloはお金を生み出しているのです。

"Taco"も大きくなりました

“Taco”も大きくなりました

さて、そうこうしているうちに投資家から電話が来るようになりました。「Trelloに投資したい」と言うのです。彼らは、自分の投資先企業を見渡してみたら、どこもTrelloのボードだらけだということに気づき始めたのです。

しかし僕たちは特にお金に困ってはいませんでした。Fog Creekは利益を上げているし、Trelloの開発が採算に乗るまで資金を出す余裕もあったのです。僕たちは投資家たちに、Fog Creekの少数株主、非支配株主になら、なってもらってもいいと告げました。そして僕たちの文化やデベロッパツール、プロフィットシェアリングのプランやフリーランチ、個室のオフィスやその他もろもろについて説明したのですが、彼らは困惑してこう言いました。「うーん、それはそのままにしておけばいい。Trelloに投資したいだけなんだ」と。

さて、お金に困ってはいなかったけれど、もちろんお金は好きです。Trelloを早く成長させ、驚くような新機能を追加し、営業とマーケティングチームを雇ってTrelloビジネス講座で働かせるなど、いろいろとアイデアは持っていました。いつかはすべてそういったアイデアを実現させられるでしょう。でも現ナマがあればもっと早くできるのです。

そこで、随分とややこしいプランが出来上がりました。僕たちはTrelloをスピンアウトさせてTrello Inc.という独自の会社とし、外部の投資家が少額から投資できるようにしました。つまり現在、TrelloとFog Creekは正式に別会社となったのです。Trelloは独自に運用できる多額の資金を銀行に持っています。Fog CreekFogBugzKilnのラインアップを維持し続け、折に触れて新たな製品も開発していくでしょう。2000年に僕と共同でFog Creekを立ち上げたマイケル・プライアーが、TrelloのCEOとなります。

そうです。このブログの昔の読者も指摘している点ですが、ベンチャーキャピタルの関心は必ずしもファウンダーの関心と一致するとは限らず、ベンチャーキャピタルが投資先の会社を駄目にしてしまうこともよくあるのです。

それは概して真実なんですが、すべてというわけではありません。ファウンダーと調和する巧みなベンチャーキャピタルも世の中には存在します。Trello(そしてこの点ではStack Overflowも同様)に関しては、影響力を持ち収益が出るようになるまでは外部からの投資を受けなかったので、起業家と最も調和しそうな投資家を選ぶことができました。僕たちは会社の管理を維持できたのです。

Trelloの場合は、投資家から多くの関心が寄せられたため、既にStack Exchangeに投資している投資家に絞ることさえでき、なおかつ望んでいた金額や条件を実現できました。このやり方の利点は、僕たちは相手のことを知っており、相手も僕たちのことを知っているので、Stack ExchangeとTrelloの間で利害の衝突が起こる心配がないことです。なぜなら、彼らは両方に大きく関わっているからです。

Index VenturesSpark CapitalはTrelloへの投資者として上位を占めることになるでしょう。そしてSpark Capitalのビジャン・サベットがTrelloの取締役会に加わります。ビジャンはTwitter、Tumblr、Foursquareに早い時期から投資しているのですが、このことはTrelloに対する僕たちの野心の大きさをよく表しています。取締役会を構成する他のメンバーは、マイケルと僕の2人です。

Fog Creek、Trello、Stack Exchangeは現在3つの別会社となりましたが、どの会社でも運営のあり方、いわばOSは基本的に同じです。その基盤となっている独自のマイクロプロセッサアーキテクチャは、“会社を、最高の開発者が働きたいと思う場所にする”というものです。つまり簡単に言うと、人を大事にするということですね。

このOSが関わっていくのは、物理層(日の当たるきれいな個室のオフィス在宅勤務の許可、ケータリングのランチ、高さの調節が可能なデスクとアーロンチェア、そして最高のコーヒー)、アプリケーション層(すべてがカバーされる健康保険、豊富な休暇、家庭に配慮した方針、無理のない勤務時間)、プレゼンテーション層(合理的で実際的なプログラミング環境意思決定をチームに委ねること、できる人材を採用して仕事を任せること、人材育成専門職開発のための活動)、そして大部分を成す人間層です。何をするにしても、真っ先に考えなければならないのは、公正で人間味や思いやりがあること、そしてお互い家族のように接するということなんです。(僕が結婚したことは話しましたっけ?)

そんなわけで、現在3つの会社があってそれぞれ別の製品を扱っていますが、どの会社でも、オフィスにはラ・マルゾッコのエスプレッソマシン「リネア」があり、パートナーとの間に赤ちゃんが出来たら500米ドル(約50,000円)が支給されます。どのように人を使うかを検討する際に僕たちが第一に考えるのは、公正で思いやりのある方法にするということです。

このアーキテクチャこそ、僕がこのブログで10年間熱く語っていたことなんですが、みんなに聞いてもらえるとは限りませんよね。でも、こうして次々に会社を起こし僕の風変わりなOSを広めていっているので、ゆくゆくは分かってもらえると思っています。人が第一でいいんです。精神的に不安定になったり、人をこき使ったり、めちゃくちゃなコードをたくさん書いたり、間仕切りのない騒々しいオフィスで働いたりする必要はありません。

ともかく、以上が僕たちの周囲に関するニュースです。Trelloの活動に興味のある方をぜひ採用していきたいので、どうぞ応募してくださいね。