IRCは死んだ。IRCよ栄えよ。

IRC

IRCInternet Relay Chatが世に出たのは1988年だが、インターネットの言葉では、すでに古代だ。今なお世界で何十万ものユーザが使っているとはいえ、IRCの利用は劇的に減少してきている。

一時はこれほど広く使われた技術に多くのユーザが興味を失ったように思われるのはなぜか、IRCの開発者を含めた何人かと話をした。

IRCの起源

私たちはIRCの開発者、Jarkko Oikarinenと連絡を取った。スウェーデンのGoogleに勤務する彼は、IRC誕生のストーリーを聞かせてくれた。

(初期のIRCサーバ。写真提供:Wikipedia.)

Oikarinenによれば、彼は、1988年にフィンランドのUniversity of Ouluで夏期インターンをしていた3か月か4か月の間にIRCを作った。

当時OikarinenはOuluBoxというローカルBBS(電子掲示板)を運用していて、そのチャットシステムを刷新する必要があった。彼は新しいチャットシステムに取り組むうちに、OuluBoxにログインしなくても、人がインターネットからチャットに参加できるようにしたいと思った。

そこでIRCが誕生することになる。

それ以来、IRCは世界中の多数のユーザにとって計り知れないほど大切な通信手段の役割を果たしてきた。議論したいことや助けを求めたいことがあれば、ほとんど何にでもIRCネットワークとチャネルが助けになった。

しかし、新世紀の到来から後、Webやソーシャルメディアのような他の通信の形へとユーザが移るにつれてIRCの人気は下降してきた。IRCがどれだけ不振なのかを知るために、私たちは数値を入手した。

IRCは2003年以後、ユーザの60%を失った

全体的なIRCの利用は、ユーザ数とチャネル数の両方について、何年にもわたって着実に下降してきている。事実、IRCは2003年以後、ユーザの60%を失っており、これはどんなサービスであっても劇的な落ち込みだと言える。


注釈:
全世界のIRCチャネルとユーザの総数
IRCチャネル
IRCユーザ
データソース:Archive.org、SearchIRC.com

Oikarinenは、IRCの衰退の原因はインターネットの商業化だという。

彼が言うには、”企業はユーザを壁で囲まれた庭園に誘い込みたがっている。その理由は、ユーザのプロファイルをそこに留め置いて、ユーザが庭園から外に簡単にデータを持ち出せないようにするためだ”

この、壁で囲まれた庭園という手法にIRCの持つ分散型の性質は馴染まない。そこで企業はIRCのような開かれた通信ツールをサポートするかわりに独自のソリューションの作成に資金を投資するのだ、とOikarinenは主張する。

IRC-Junkie.orgのウェブマスター、Christian Ledererは”phrozen77″という名でも知られ、長年にわたってIRCコミュニティの実情を把握してきた。Ledererによれば、IRC利用の衰退の背景には多くの原因が考えられる。

  • Ledererは、衰退の背景にある主要因の1つとして、2000年代初期の大規模で長期的なDDoS攻撃を挙げる。この攻撃は、非常に人気の高いものを含む多くのIRCネットワークを混乱に陥れ、ユーザのためのチャット体験に打撃を与えた。ネットワークが回復したときには、多くのユーザはすでに他へ移っているか、IRCを捨て去っていた。

  • __ソフトウェアの海賊版とWarezの蔓延も別の要因だとLeadrerは指摘する。__IRCの黎明期には、人がIRCネットワークに接続する主な理由は、そういったコンテンツを見つけることだった。ユーザは時と共に、P2Pのような、warezを手に入れるためのもっと簡単で新しい方法を見つけるようになり、その結果、IRCをあまり必要としなくなった。

  • ソーシャルネットワーキングもまた、ユーザがIRCを見捨てるのに重要な役割を果たした。ユーザは、FacebookTwitterLinkedinなどのようなサービスでソーシャルネットワークを通してコミュニケーションをとる方が、IRCチャネルにログインするよりもずっと便利だと知った。

  • 最後にLedererは、安価で信頼性の高いホスティングが低コストで利用できるようになったことを指摘する。あるネットワークのやり方に不満があれば、誰でも突如として自分でネットワークを立ち上げることもできる。そのときに、それまで運用していたチャネルとユーザを持ち去り、それにより、大規模ネットワークの数にさらに打撃を与えることになる。

このように、IRC利用の衰退は複雑な問題で、簡単な答えはない。でも、次に説明するように、悪いことばかりではない。

IRCのトップネットワークの1つ、Freenodeは衰退傾向に抗う

トップ6のIRCネットワークをよく調べて、その2003年からの発展をグラフ化した。勝者と敗者の存在が明白だ。

注釈:
ユーザ数トップ6のIRCネットワーク
データソース:Archive.org、SearchIRC.com

QuakeNetEFnetIRCNetが多くのユーザを失っているのに対し、DALnetRizonはあまり増減せずにずっと低迷している。

それでも、IRCの世界がお先真っ暗というわけではない。Freenode.netは、この典型的な傾向に追従せず、むしろ飛躍的に成長しているように見える。2003年から2012年の間にユーザ数で486%の増加だ。Freenodeのブログによれば、2012年4月2日に80000の同時接続を受け渡した。

事実、この数値によれば、FreenodeはQuakeNetを抜いて世界一のIRCネットワークになった。

注釈:
フリーノードIRCネットワークのチャネル数とユーザ数
IRCチャネル数
IRCユーザ数
データソース:Archive.org、SearchIRC.com

Freenodeの運営組織であるPeer-Directed Projects Center(PDPC)の会長、Christel Dahlskjaerは、このネットワークの成長は無料のオープンソースソフトウェアのおかげだと説明する。

Dahlskjaerによれば、”Freenodeは着実に成長してきたし、成長し続ける。ただし、Freenodeは従来型のIRCネットワークだったわけではない。ユーザがFreenodeを訪れる理由には、ネットワーク上にチャネルを持つ無料のオープンソース プロジェクト(または、他のピア指向プロジェクト)に貢献したり、そのプロジェクトを使ったりするためという傾向がある。すると、さまざまなプロジェクトのユーザと貢献者が重複して参加しているという理由から、他のプロジェクトもFreenodeに参入してくることになる”

“要するに、FreenodeはFreenodeだから成長するのでもないし、IRCだから成長するのでもない。Freenodeは、Freenodeを”ホーム”として選んだプロジェクトが成長しているから成長するのだ”

現在のFreenodeの幸運は長続きするのかという問いに、Dahlskjaerは答える。”近いうちに成長が止まるかも知れないと考える理由は見当たらない。少なくともこの6年間、Freenodeは非常に安定している”

IRCはどこに向かうのか?

IRCの全体的な利用が衰退していることは明白だが、ある種のニッチな領域では成長している。おそらく、そこにIRCの未来がある。

Ledererによれば、IRCがFacebookのような簡単に使用できるソリューションと競合するには改革が必要だ。そのためには、IRC関連ソフトウェアの開発者が考え方を変えて、プロトコルとサーバに関してだけではなくクライアント側に関しても、この改革を推進していかなければならない。

Oikarinenによれば、3D仮想世界、マルチメディアなどの他のシステムとの”さらなる相互運用性”は、1つの”興味深い進路”だ。Oikarinen自身は今ではIRCの開発に活発に関わってはいないが、進路は個々人に委ねられているという。

“大きな進歩を遂げるには、必ずしも多人数のチームでなくてもよい。たった1人でも大きな違いを生むことはできる”

Ledererも同様に、IRCで実現可能なものごとの境界を独立したクライアントが押し上げていると指摘し、従来のIRCにビデオチャットを持ち込んだKVIrcや、複数のIRCユーザが仮想ホワイトボードを共有できるKonversationなどのプロジェクトを挙げる。

IRCよ栄えよ

IRCが直ぐに消滅するだろうと考える理由はないが、一時は非常に人気のあったこの技術の将来を懸念する理由もある。Freenodeは成長するIRCコミュニティの一例にはなるが、それがそのまま、IRCの未来が保証されていることを意味するわけではない。

Pingdomでは、IRCが長年にわたって世界中のユーザにもたらした莫大な価値を認め、IRCが広く使われ続けることを願っている。事実、独自のIRCサーバを最近セットアップし、面白い計画がいくつかある。

データについて:インターネットアーカイブのウェイバックマシンを使用して時代を遡り、SearchIRC.comからのデータを使用して、IRCが近年どのように開発されてきたのかを調べた。ただし、この記事のグラフを作るために使用したサービス、SearchIRC.comですべてのIRCネットワークが索引付けされているわけではない。例えば、UndernetはSearchIRCの索引には入っていない。それでも、SearchIRCのデータを使って描かれた一般的な傾向は正しいと確信する。冒頭の画像は、Shutterstockから。